パンドラ

『パンドラ』
(1:1:0)
35~40分台本

〜登場人物〜
[アザミ]
・性別女。
・本名はサクラ。23歳。
・ネットでは大人っぽくしっかりした印象だが、実際は甘えたがりでわがまま。
・強気であたりが強い。
・幼い頃に両親を亡くしており、『家族』というものに対してこだわりが強い。
(作者から一言→アザミは結構几帳面なので、とにかく色んなことに対して真面目に真剣に葛藤してるんだと思います。)

[ケンジ]
・性別男。
・本名はケン。45歳。
・セクハラ紛いな言動が多々あるが、その実際は紳士的で面倒見が良い。
・自分に対しての自信はあまりなく、頼られることに自分の価値観を見出している。
(作者から一言→ケンジは人のことになると自分のことなんてゴミみたいにほっぽっちゃうので、意外と自傷的な一面を持っていると思います。)

⚠️注意
・当サイト『さきょうのあたま』の利用が初めての方は、必ず利用規約をお読みくださいませ。
・本作には一部性的描写があります。観覧、使用の際は自己責任でよろしくお願いします。
・登場人物の性転換はご遠慮ください。
・最後に、読み込みの際は『あとがき』までお読み頂けると作品に対する作者の意図が掴んでいただけると思うのでオススメです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

~こういう幸せもあるよね By,作者~

『本編』


~アザミの部屋~
(アザミ:携帯の画面を見つめながら)

アザミ「…あーあ。またやっちゃった」

アザミM「いつから私はこうなったんだろう。んー...分かんない。
私って、ほんと最低な人間だよね。自分で言うなよって感じだけど。...でもさ?
ーーー最低な人間は幸せになっちゃいけませんか?」


(間)


~駅~
アザミ「えっと...?黒のジャケットに...サングラス...」

ケンジ「紺のスカートに...デニムジャケット...」

アザミ「あっ!(ケンジに駆け寄る)」

アザミ「やっほー!」

ケンジ「あ、やっと見つけた。えっと...アザミ...だよね?」

アザミ「うん、そっちはケンジ...だよね?」

ケンジ「おう」

アザミ「はー...よかったー...(しゃがみこむ)」

ケンジ「ん?どした?」

アザミ「あーいや、会うまでずっと緊張してたからさ」

ケンジ「そうなの?」

アザミ「そりゃ、オフ会なんて初めてだし?なんか危ないとか聞くし?緊張するでしょうよ!」

ケンジ「危ない?俺が?」

アザミ「ん?ケンジはいつも危ないでしょうよ」

ケンジ「はいはい、俺は危ないおじさんですよ」

アザミ「ふふっ」

ケンジ「ま、ここにいても何だし。行くか」


(間)


~街中~
ケンジ「んだよ、ジロジロ見て」

アザミ「んー?ほんとに写真のまんまだなーと思って」

ケンジ「そりゃ、本人だしね?」

アザミ「まぁ、そりゃそうだけどさ?......ふふっ」

ケンジ「ん?どした?なんかいいことでもあったか?」

アザミ「いや、なんかさ」

ケンジ「おう」

アザミ「やっと会えたなーって感じ」

ケンジ「ふっ、なんだよそれ」

アザミ「んー?別にー?」

ケンジ「そんな可愛いこと言うと、襲っちゃうぞ?」

アザミ「まーたそうやってすぐ誘うー」

ケンジ「ん?通常運転?」

アザミ「知ってますー」

ケンジ「ははっ、相変わらずの塩対応」

アザミ「んで?どこ連れてってくれるの?案内してくださいよー?おじさん?」

ケンジ「おじさん?」

アザミ「なーにキレてんの。さっき自分が言ったんじゃん」

ケンジ「自分で言うにはいいんだよ」

アザミ「えー、じゃあ何?お兄さんとでも呼べばいい?」

ケンジ「それはそれで......有り」

アザミ「うえ、気持ち悪」

ケンジ「失礼な」

アザミ「...あれ、ケンジって何歳だっけ?」

ケンジ「45」

アザミ「あれ、そんな若かったっけ?」

ケンジ「失礼だな」

アザミ「えっと?私が23だから...?22歳離れてるのか」

ケンジ「おじさんって差でもないだろ?」

アザミ「おじさんじゃん」

ケンジ「あのなぁ」

アザミ「んー、じゃあ本名で呼んだ方がいい?それとも、ケンジのままの方がいい?」

ケンジ「どっちでも」

アザミ「ふーん。じゃ、ケンジ」

ケンジ「なんで?」

アザミ「呼びやすいから」

ケンジ「即答かよ。そっちは?本名の方がいい?」

アザミ「どっちでもいいよ。呼びやすい方で」

ケンジ「じゃあアザミ」

アザミ「そっちだって即答じゃん」

ケンジ「今更呼び方変えてもな」

アザミ「それね。でも、なんでケンジ?本名ケンでしょ?」

ケンジ「ケンの次の名前」

アザミ「まんまじゃん」

ケンジ「俺のネーミングセンス舐めんじゃねぇよ。んなもんねぇから」

アザミ「知ってる」

ケンジ「そっちは?なんでアザミ?サクラと1文字も掠ってねぇじゃん」

アザミ「好きなキャラクターからとった」

ケンジ「そっちだってまんまじゃねぇかよ」

アザミ「いいじゃん。好きなんだもん」

ケンジ「何のキャラ?」

アザミ「え、知らないの?!」

ケンジ「は?」

アザミ「『あの日の君を僕は忘れない』」

ケンジ「あぁ、あの超マイナーアニメ。人気無さすぎてワンクールで終了した...」

アザミ「人気ないとか言わないの!」

ケンジ「ほんとの事だろ」

アザミ「ちーがーう!周りの目がなかっただけだってば!」

ケンジ「あれだろ?ヒロインが主人公に恋をするけど、結局横取りされてフラれる...」

アザミ「んー、ちょっとニュアンス違うけど...なんだ知ってるんじゃん」

ケンジ「まぁ、あれだけ2チャンで叩かれてればな」

アザミ「だーかーらー!」

ケンジ「で?そのアザミってのはどんなキャラなわけ?」

アザミ「え?んーとね、可愛くて優しくて、すっごく大人びてるんだけどめちゃくちゃ毒舌でね。主人公にはとにかく塩対応なの。でもなんだかんだで主人公のことが好きなんだよねー!なのに主人公はそれに気づいてなくて、あーもー!早く気づけよー!後輩が可哀想だろーがー!って感じ!」

ケンジ「...ふーん」

アザミ「...何さそんな意味深な顔して」

ケンジ「ん?わざとなのかなーって」

アザミ「何が?」

ケンジ「大人びてて、毒舌で、塩対応で...あとなんだ?後輩だっけ?」

アザミ「うん。それがどうしたの?」

ケンジ「いや、アザミじゃん」

アザミ「...ん?」

ケンジ「いや、だから。お前じゃんって」

アザミ「...は?!そんなわけないじゃん!」

ケンジ「でも、設定聞く限りじゃお前じゃね?」

アザミ「違うよ!アザミは私なんかよりも断然可愛くて可愛いくて可愛くて!可愛いんだから!えーっと?(携帯を取り出して)
ほら見て!可愛いでしょ!(画像をケンジに見せつけ)」

ケンジ「ん?...っはは(吹き出して)」

アザミ「どしたの?」

ケンジ「いや、見た目は全然違うなと思って」

アザミ「当たり前じゃん。アザミと私が似てるわけないでしょ!」

ケンジ「はいはい。そういうことにしておきましょうか」

アザミ「(不貞腐れて)」

ケンジ「ほら、着いたぞ」

アザミ「ん?えっ、は?!ここって...」

ケンジ「ラブホ街」

アザミ「なっ...は?!」

ケンジ「何驚いてんだよ」

アザミ「えっ、ちょ...ケ、ケンジ...あんた正気?!」

ケンジ「正気も何も、俺はいつでも本気だけど?」

アザミ「っ......」


(間)


ケンジ「...ふっ...はは(吹き出して)」

アザミ「なっ...えっ...」

ケンジ「何慌ててんだよ」

アザミ「慌てるに決まってんでしょ!」

ケンジ「ん?なんか話食い違ってるなーと思ったら、アザミこれからどこいくと思ってんの?」

アザミ「どこって...」

ケンジ「こっち」

アザミ「なっ...!」

ケンジ「アザミずっと行きたがってただろ?俺の行きつけのバー。そこちょっと曲がったとこなんだけど...あ、何?もしかしてホテルでも行くと思った?」

アザミ「なっ...」

ケンジ「っ...(笑いを堪え切れない様子で)」

アザミ「っ!もう!このエロおやじ!」

ケンジ「その通りですが何か?え、何?期待でもした?」

アザミ「してません」

ケンジ「(クスクスと笑って)」

アザミ「もー!!」

ケンジ「はいはい。よしよし」

アザミ「触るな!この変態!」

ケンジ「えー、おじさん寂しいなー。せっかくずっとアザミが行きたいって言ってたから連れてきてあげたのになー。そんな言い方されるなんてなー。ちょっとふざけただけなのになー」

アザミ「なっ...」

ケンジ「あーあ。残念だなー。帰ろっかなー」

アザミ「...い、行くもん!」

ケンジ「ふっ、単純」


(間)


~BAR内~
ケンジ「お席をどうぞお嬢様(椅子を引いて)」

アザミ「うるさい...」

ケンジ「何?まだ拗ねてんの?」

アザミ「...別に」

ケンジ「拗ねんなって。来たかったんだろ?」

アザミ「そりゃ、来たかったけど...」

ケンジ「(タバコを取り出し吸い始め)マスター。オリジナルのやつ2つ。あ、1つはアルコール弱めに作ってやって」


(間)


ケンジ「で?どした?」

アザミ「え?」

ケンジ「最近元気がなかった。いきなり会いたいとか言ってきた。タイムラインに訳ありそうな呟きが多かった」

アザミ「......」

ケンジ「彼氏となんかあったか?」

アザミ「...んー、やっぱケンジにはバレちゃうか」

ケンジ「そりゃ、お前分かりやすいし?」

アザミ「そんなことないもんっ。...はぁ、あーあ」

ケンジ「んだよ」

アザミ「いや、確かに彼氏関係で悩んでるのは確かだよ」

ケンジ「おう」

アザミ「で、会社の都合で引っ越す先が偶然ケンジの地元だった」

ケンジ「おう」

アザミ「で、ふと思ったわけですよ。ケンジに会いたいなーって」

ケンジ「それで?」

アザミ「このモヤモヤした気持ち吹っ飛ばせないかなーって」

ケンジ「やっぱりな」

アザミ「...なんで当てんのよ」

ケンジ「ん?アザミが分かりやすいから」

アザミ「2回も言うな」

ケンジ「んで?どしたって」

アザミ「んー、彼氏が直接どうこうってわけじゃないんだけどさ」

ケンジ「おう」

アザミ「彼氏がさ。綺麗すぎるのよ」

ケンジ「......は?潔癖性ってこと?」

アザミ「ピュアすぎるってこと」

ケンジ「...具体的には?」

アザミ「世でいう完璧彼氏っていうの?連絡マメだし、彼女第一だし、デートの時はいつも好きなところに連れてってくれるし。
家事も手伝ってくれるし、収入もしっかりしてるし、怒らないし、束縛しないし、紳士的だし...」

ケンジ「それだけ聞いてるとただの自慢かよって感じ」

アザミ「ほんとその通り。世間一般には自慢しても恥ずかしくないくらいには素晴らしい彼氏。......でもさ?」

ケンジ「おう」

アザミ「なんか、それが今になってプレッシャーっていうかさ」

ケンジ「プレッシャー?」

アザミ「うん。なんていうかさ、釣り合わないなって。私は、男友達とかいっぱいいるし、彼氏第一とか考えられないし。
付き合い始めた頃は周りから素敵なカップルとか言われて、浮かれてたんだけどさ。
...だんだんそのピュアさが疲れてきちゃってさ」

ケンジ「ピュア...ねぇ」

アザミ「私ってさ、汚いの。正直、浮気はバレなきゃしてもいいと思ってるし、セフレとかそういうのも全然有りだなって思う人間なの。
あ、思うだけでしたことはないけどね」

ケンジ「なんで?」

アザミ「んー、なんでかって聞かれると...。なんでだろ。したことないから分かんないや」

ケンジ「...んー、そっか。そういうパターンもあるのな」

アザミ「そういうパターンって?」

ケンジ「いや、俺がよく聞くのは、彼氏が構ってくれないだの、束縛が激しいだの。そういうのばっかりだったからさ。
そういう悩みもあんだなーって」

アザミ「贅沢な悩みだよねー」

ケンジ「自分で言うなよ」

2人「(笑う)」


(間)


(2人の前にカクテルが用意される)

ケンジ「お、きたきた。これ、お前飲みたかったんだろ?」

アザミ「あ、これ...。ケンジがよくタイムラインにあげてるカクテルだよね?」

ケンジ「そ。毎回あげる度にあざみが反応するから、こいつ絶対飲みたがってんだろなーって」

アザミ「...はぁ。ほんと、あんたって私の考えてることよく分かるよねー」

ケンジ「アザミが分かりやすいからな」

アザミ「どこら辺が?」

ケンジ「全体的に」

アザミ「曖昧だなー」

ケンジ「じゃあ、アザミの今考えてること当ててやろうか?」

アザミ「ほー。当ててみろよ」

ケンジ「俺に抱かれたい」


(間)


アザミ「んー、そうだなー。まぁ正解」

ケンジ「お、まじで?」

アザミ「まじで」

ケンジ「じゃあなんでさっき期待してないとか言ったの」

アザミ「期待してるとか言ったらそのままホテル直行するでしょ」

ケンジ「だめなの?」

アザミ「気が早い」

ケンジ「えー」

アザミ「私の話を最後まで聞いてからにしろ」

ケンジ「聞けばいいのかよ」

アザミ「まぁ。あんたに会うってことは?多分そうなんだろーなーとか?考えてたし?」

ケンジ「いっつもセクハラしてるエロおやじだもんな」

アザミ「うん」

ケンジ「色んな女口説くもんな」

アザミ「うん」

ケンジ「でも、そんなこと考えてるアザミもよっぽどエッチだと思うけどな」

アザミ「うるさい!あんたの言うことは本気か冗談か分からん!」

ケンジ「俺はいつだって本気だけど?」

アザミ「...はぁ。ていうかさ、ケンジあんた彼女は?」

ケンジ「ん?彼女?」

アザミ「よく女の子と遊びに行ってるでしょ?女の子の方が写真載せてるからたまに見かけるんだけど。あ、私は直接絡みなくてね。誰だっけ...えっと...」

ケンジ「あぁ、ハルカのこと?」

アザミ「そうそう、ハルカさん」

ケンジ「あいつは俺のセフレ」

アザミ「まじで?」

ケンジ「まじで」

アザミ「まじか」

ケンジ「まじよ」

アザミ「てっきり彼女だと思ってた」

ケンジ「まぁ、よく遊んでるからな」

アザミ「そっか、彼女いないんだ」

ケンジ「で?話って?」

アザミ「今日はね、ケンジに抱かれに来たの」

ケンジ「よし、ホテル行こう」

アザミ「だから聞けって」

ケンジ「抱きたい抱かれたいで話は終わっただろ」

アザミ「理由を聞け」

ケンジ「ったく、めんどくせぇな」

アザミ「抱かせねぇぞ?」

ケンジ「はいはい。で?なんで?」

アザミ「何か考え変わるかなーって」

ケンジ「考えって?」

アザミ「私ね、彼氏と別れるか考えてるの」

ケンジ「ほう」

アザミ「彼氏のことは好きだけどね。さっきも言ったけど、私って汚いのよ。彼氏がしてくれることに私は何も返せない。かといって返そうと努力する訳でもない。
結局自分が一番大事なのよ。でもさ、そんなもんでしょ?」

ケンジ「まぁ、そうかもな」

アザミ「でも、やっぱり罪悪感ってあるわけ。なんで私ってこうなんだろうって。
でも直せない。...なんでか分かる?」

ケンジ「さぁ」

アザミ「私は彼氏を愛していないから」


(間)


アザミ「さ、行こっか」

ケンジ「は?」

アザミ「ん?」

ケンジ「話は?」

アザミ「これで終わり」

ケンジ「意味わかんね」

アザミ「ん?行かないの?ホ・テ・ル」

ケンジ「...はぁ。はいはい。(タバコの火を消して)マスター、金ここに置いとくから」


(間)


~ホテル街~
アザミ「で?どこ入るの?」

ケンジ「どこがいい?」

アザミ「私、実のところラブホテルって場所に縁がないのよね」

ケンジ「さすがに嘘だろ」

アザミ「まじで」

ケンジ「まじか」

アザミ「今は同棲中だし、その前もお互い一人暮らしだったし。だから1回も行ったことない」

ケンジ「じゃああそこ行くか」

アザミ「なんで?」

ケンジ「よく行くから」

アザミ「セフレと?」

ケンジ「そ」

アザミ「えー」

ケンジ「えーってなんだよ」

アザミ「ホテルはじめてって言ってる女の子にそれはないわ」

ケンジ「は?」

アザミ「わー、ないわー」

ケンジ「あー、はいはいそうですね」

アザミ「拗ねるなよ」

ケンジ「拗ねてねぇし」

アザミ「ふっ、はいはい。ほら、入るんでしょ?(手を差し出して)」

ケンジ「.....ったく、もうなんでもいい(アザミの手を取って)」


(間)


~ホテルエントランス~
アザミ「(あたりをキョロキョロとして)」

ケンジ「そんなにキョロキョロしてっと、処女だと思われんぞー」

アザミ「うるさいな」

ケンジ「ほんとに来たことないんだな」

アザミ「あんたに嘘なんかついてどうするのよ」

ケンジ「ま、それもそうな」


(間)


~ホテル室内~
ケンジ「さ、お先にお入りください?」

アザミ「ありがと」

ケンジ「どう?」

アザミ「ん?」

ケンジ「初めて来たご感想は」

アザミ「んー、まぁ普通?ていうか、端から目的が決まってるのに感想も何もなくない?」

ケンジ「そこはもっと女の子らしい反応しようぜ?恥ずかしいとかねぇの?」

アザミ「それこそ、目的が明確なのに恥ずかしがる理由ってある?まだ裸を見られたわけでもあるまいし、ましてや私から誘ったのに」

ケンジ「やれやれ。まぁ、アザミらしい反応だけど」

アザミ「ん!(両手を広げて)」

ケンジ「...ん?」

アザミ「だっこ」

ケンジ「なんで」

アザミ「いいからだっこ!」

ケンジ「ふっ。はいはい」

ケンジ「いきなり甘えん坊か?」

アザミ「...別に、普通だし」

ケンジ「普通?」

アザミ「うん」

ケンジ「そっか」

アザミ「ねぇ」

ケンジ「ん?」

アザミ「キスして」

ケンジ「はいはい(キスして)」

アザミ「...ふふっ」

ケンジ「可愛いな」

アザミ「...可愛くないし」

ケンジ「アザミってさ、ネットの時とは全然違うのな」

アザミ「そう?」

ケンジ「ネット内のアザミは、年齢よりもずっと大人びてて、すっごいしっかりしてる感じ」

アザミ「よく言われる」

ケンジ「でも、今日こうして話してると、わがままで、甘えん坊で。こっちが素のアザミなの?」

アザミ「ガッカリした?」

ケンジ「する訳ないだろ?」

アザミ「ならよかった」

ケンジ「アザミ?」

アザミ「何?」

アザミ「...サクラって呼んでもい?」

アザミ「...いいよ」

ケンジ「今はネットのアザミじゃなくて素のサクラのままでいて(頬にキスをして)」

アザミ「ん...。いっぱい甘えるから、覚悟しといた方がいいよ?」

ケンジ「寧ろそうして。その方が興奮する」

アザミ「変態」

ケンジ「褒め言葉」

アザミ「ちょっ、どこ触ってっ...」

ケンジ「ん?俺に抱かれたかったのはどこの誰だったかなー」

アザミ「っ...」

ケンジ「あ、ここ好き?」

アザミ「...ばか」

ケンジ「ふっ、何だかんだ照れてんじゃん」

アザミ「うるさい」

ケンジ「強気なところはアザミと変わらずだな」

アザミ「知らない」

ケンジ「はいはい。そろそろその煩い口、塞ぎましょうかね」

アザミ「っ...ふ、ぅ...!」

ケンジ「んっ......(深いキスをして)」

アザミ「っ...ぷはっ...」

ケンジ「ふっ、やっぱ可愛い」

アザミ「可愛くないっ...」

ケンジ「素直じゃない」

アザミ「うるさい」

ケンジ「ほんとに抱いていいの?」

アザミ「いいからきたんでしょ」

ケンジ「最確認。後で文句言われんの嫌だし」

アザミ「......いいよ」

ケンジ「ほんとに俺でいいの?」

アザミ「...いいよ」

ケンジ「じゃあ、なんで俺なの?」

アザミ「......」

ケンジ「サクラ?」

アザミ「うるさい!早く抱きやがれ」

ケンジ「ふっ、はいはい。仰せのままに」


(間)


ケンジ「サクラ」

アザミ「......ん...」

ケンジ「おはよう」

アザミ「ん...眠い...」

ケンジ「ん?昨日は凄かったもんな?」

アザミ「...うるさい」

ケンジ「睨むなよ」

アザミ「腰痛い」

ケンジ「それはご愁傷さま」

アザミ「激しすぎ」

ケンジ「抱いてって言ったのは誰?」

アザミ「......」

ケンジ「で?考えは変わった?」

アザミ「んー...どうだろ」

ケンジ「どうだろって...」

アザミ「ケンジ、だっこ!」

ケンジ「はいはい」

アザミ「よいしょ...っと。ふぅ」

ケンジ「何してんの?」

アザミ「ケンジの匂い嗅いでるの」

ケンジ「加齢臭だぞ」

アザミ「そんな臭くないよ。...安心する」

ケンジ「(アザミの頭を撫でて)」


(間)


アザミ「ねぇ、ケンジ」

ケンジ「ん?」

アザミ「私さ、結婚するの」

ケンジ「...は?!」

アザミ「だーかーら、結婚」

ケンジ「まじ?」

アザミ「あとは私の返事一言で決まる」

ケンジ「なのに別れるか考えてんの?」

アザミ「うん」

ケンジ「なんでまた」

アザミ「...前にさ、私の両親2人ともいないって話したじゃん?」

ケンジ「そういえば。交通事故だっけ?」

アザミ「うん」

ケンジ「それがどうした?」

アザミ「昔から憧れてたの。素敵な家族に。私が大人になったら絶対に叶えてやるんだって思って、それだけが私の夢だったの。
だから私、そのためだけに頑張った。
勉強して、良いとこ就職して、お金も貯めて」

ケンジ「おう」

アザミ「でもさ、やっぱり結婚って肝心な相手がいないとできないじゃん?」

ケンジ「まぁ、そりゃそうだな」

アザミ「私の夢を叶えるためには、私だけが完璧じゃだめなの。相手も完璧じゃないとさ」

ケンジ「サクラの彼氏は完璧?」

アザミ「うん」

ケンジ「どこら辺が?」

アザミ「昨日も言ったけど、すごく綺麗なの。これぞいい人間のお手本なんだろうなって感じ」

ケンジ「ふーん」

アザミ「この人なら良い夫、良い父親になってくれるなって。そう思って付き合った」

ケンジ「良い彼氏じゃなくて?」

アザミ「うん」

ケンジ「なんで?」

アザミ「私って今まで結構いろんな人と付き合ってきたのよね。ニートだとかギャンブラーだとか借金持ちだとか、どこかしらでダメ男な人達」

ケンジ「うん」

アザミ「皆大好きだったし、愛してた。でもさ、結婚したいなとは思わなかったの」

ケンジ「完璧じゃないから?」

アザミ「そう。で、最終今の彼氏を選んだ。でもそしたらね、将来性は見えたんだけど今度は愛情がうまれなくて、その代わりに罪悪感がうまれたの」

ケンジ「昨日も言ってたな」

アザミ「私のために色々してくれて、プロポーズまでしてくれて。そこまでしてくれるのに、私は彼氏のことを愛してない。
でも、愛してもいない人を拘束するのって結構しんどいの。情なんてないのに、無理やり作り出すんだから。
嫌われないために、離れられないために、わがままも言わない。我慢なんて当たり前。強くいないとやってられないよ。
私は彼氏の前では、『アザミ』なの。
...いっそ、別れた方が楽なのかなとも思うんだけどね」

ケンジ「大変だな。でも、そこまでするメリットって何なわけ?」

アザミ「私の夢が叶う」

ケンジ「それだけ?」

アザミ「私にとっては大きなことなの。小さい時からずっと寂しくて、どこか孤独で。
幸せな家庭が羨ましかった。
だから、私の手で作り出そうって。やっと、やっと叶うのに......なんでこんなに辛いかな」

ケンジ「...完璧ね。んー、俺にはよくわかんねぇけど」

アザミ「ケンジはさ、なんでセフレなんて作るわけ?一人の人に決めようとは思わないの?」

ケンジ「1人に収まるなんて、俺には合わないからな」

アザミ「ふーん」

ケンジ「俺に抱かれて、それでそいつの気持ちが楽になるならって思ってる」

アザミ「どういうこと?」

ケンジ「お前もそうだったろ?俺に抱かれたいって言う女は、皆何かに苦しんでたり、悩んでたり。辛そうな姿、見てられないだろ?だから、現実逃避のサポートっていうか...な」

アザミ「現実逃避...ね」

ケンジ「心当たりあるだろ?」

アザミ「...ははっ。そうだね。考えてる、とか言いながら、なんだかんだ自分の中で答えは出てて。...多分、逃げたかっただけなんだよね。罪悪感から」

ケンジ「...サクラは、どうしたいわけ?」

アザミ「どうしたい...か」

ケンジ「1つずつでいいから。言ってみ?」

アザミ「んー...。別れたく...ない」

ケンジ「うん」

アザミ「結婚は...したい」

ケンジ「あとは?」

アザミ「...あとは......。んー、細かいことまではまだよくわかんない」

ケンジ「そうか(アザミの頭を撫でて)」

アザミ「私、どうしたらいいのかな...」


(間)


ケンジ「また、俺に抱かれに来いよ」

アザミ「...へ?」

ケンジ「サクラがしてることは世間体的にどうなのかは知らねぇけどよ。俺はいいと思うし。やりたいことやれよ。良い夢じゃねぇかよ」

アザミ「...ほんと?」

ケンジ「おう。でもな、罪悪感はしっかり持っておけよ?背負いきれないからって離婚するなんて馬鹿なことはするなよ?現実から逃げるなよ?」

アザミ「っ、でもさっき...」

ケンジ「最後まで聞けよ」

アザミ「へ?」

ケンジ「もし背負いきれなくなって、また苦しくなったら俺のとこ来いよ。俺だけはお前を逃がしてやるから」

アザミ「...いいの?」

ケンジ「お前が楽になるなら」

アザミ「...ほんと、ケンジはさ、優しすぎるよ。会いたいって言ったら来てくれるし、キスしてって言ったらするし、抱いてって言ったらほんとに抱くし...」

ケンジ「嫌だったか?」

アザミ「そんなわけないでしょ」

ケンジ「ふっ。知ってる」

アザミ「なんでそこまでしてくれるの?」

ケンジ「言ったろ?辛そうな姿見たくないって」

アザミ「そうじゃなくてさ」

ケンジ「...ん?」

アザミ「なんでそこまで思ってくれるの?」

ケンジ「...んー。秘密」

アザミ「何それ、意味わかんない」

ケンジ「お前だって言わなかったろ?」

アザミ「...何を?」

ケンジ「なんで俺なのって聞いた時」

アザミ「...いいでしょ別に」

ケンジ「あぁいいよ?だから、俺もいいよな?」

アザミ「...うん」

ケンジ「さてと、そろそろ帰る準備しないとだろ?ちゃんと服着ろよ」

アザミ「...着せて」

ケンジ「めんどくせぇ」

アザミ「甘えられた方が興奮するんでしょ?」

ケンジ「やった後にそれ言われてもなぁ」

アザミ「いいから。着せて」

ケンジ「...はぁ。はいはい」


(間)


アザミ「ねぇ、ケンジ」

ケンジ「ん?」

アザミ「ありがとね」

ケンジ「こちらこそ」

アザミ「...へ?」

ケンジ「とても気持ちよかったです」

アザミ「っ、変態!」

ケンジ「褒め言葉」

アザミ「(不貞腐れて)」

ケンジ「なぁ、サクラ」

アザミ「ん?」

ケンジ「ここから出たら、アザミに戻れよ」

アザミ「...へ?」

ケンジ「昨日の夜はなかったってこと」

アザミ「...うん」

アザミ「......ねぇ、ケンジ」

ケンジ「ん?」

アザミ「キスしてよ」

ケンジ「...ふっ。はいはい(キスして)」


(間)


~駅~
ケンジ「送らなくて大丈夫?」

アザミ「うん」

ケンジ「またな」

アザミ「うん。また...いつかね」

ケンジ「しょぼくれてんなよ。タイムラインでいつでも絡めるだろ?」

アザミ「ふふっ、それもそうね」

ケンジ「んじゃ、気をつけて帰れよ」

アザミ「はーい」


(間)


(アザミ:電話を取り出して)

アザミ「あ、もしもし?...うん。今帰り。そっちは?今から仕事?あー、そっか。じゃあ、鍵だけ閉めてってね。ポストに入れといて。...うん。...うん。はーい。了解。
...あ!待って待って。まだ切っちゃだめ。
......あのね?プロポーズのことなんだけど...。ーーー喜んで、お受けします!」


【END】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

〜あとがき〜
お久しぶりです。作者の鎖狂です。
ちょうど1ヶ月ぶりくらいですかね。
最近は1ヶ月1投稿を目標に頑張っているといいますか、ネタがありすぎて意外と1本毎のペースが早い状態です。

前置きはさておき、今回の作品はかなり闇といいますか。
浮気や不倫などって、結構色んな場面で題材にされているテーマですよね。
しかし、やはり悪いもの。やっちゃいけないもの。っていう感じの印象が強いじゃないですか。
いや、実際やっちゃいけないんですけどね。
また、最近は認知されるようになって来ましたが、『オフ会』。
こちらも、ネットは危ないからと反対する人は少なからずいますよね。
でもそんな周りからは受け入れられないことでも、きっとその人にはその人なりの幸せがあるんじゃないかなって。そこにスポットを当ててもいいんじゃないかなって。作者は思ったんですよ。
こういうハッピーエンドもアリだと思いませんか?
まぁ実際、本当にこのお話がハッピーエンドかなんて分かりませんけど。
そのひと時が幸せなら、きっとそれもある一種のハッピーエンドなんじゃないですかね。

『パンドラ』
開ければ、全て崩れ去るかもしれない。
しかしその中には、ほんのわずかな希望と幸せも含まれているのです。

さて、今回この物語で語られているのは、あくまでも『サクラの話』であり、ケンジに関してはあまり触れられていませんよね?
ケンジはアザミをどう思っているのか。
ケンジは今までどんな人生を送って来たのか。
どんな人間なのか。
そういう面を想像すると、ケンジの人間性や二人の関係性など、また変わって見える面があるのではないでしょうか?
そこは、演者様方、そしてこの作品を読んでくださっている方々にお任せするといたしましょう。

最近言いたいことが多すぎて、あとがきがまとまらず困っている作者でした。
それではまた、次回作でお会いしましょう。

strength for life

『strength for life』

(3:0:0)又は(2:0:1)

 

40~45分台本

 

~登場人物~
[クレイジー]

・性別男 ・ブルースよりも歳上・愛称『レイジ』・強い。でも弱い・父親を尊敬している ・ブルースは兄弟のような存在  

[ブルース]

・性別男。19歳 ・愛称『ブルー』・弱い。でも強い  ・クレイジーを尊敬している・クレイジーの父親には恩を感じている ・デスキラー

[博士]

・クレイジーの父親 ・デスキラーの研究をしている  ・博士としての父

[父]

・クレイジーの父親  ・ブルースを息子のように思っている・父としての博士

 


~3人(2:0:1)配役~

・クレイジー ♂or♀

・ブルース ♂

・博士+父 ♂

 


⚠️注意

・ 当サイト『さきょうのあたま』の利用が初めての方は、必ず利用規約をお読みくださいませ。

・クレイジーはあくまでも男です。女性の方が演じる際は性転換させないでください。(声の問題ではなく気持ちの問題です。男を演じるという気持ちがあれば誰でも演じて頂いて構いません)

・最後に、読み込みの際は『あとがき』までお読み頂けると作品に対する作者の意図が掴んでいただけると思うのでオススメです。

 


⚠️作品内での用語

【デスキラー】成長期の間に稀に起こる遺伝子の突然変異から、人喰いと化す子供。

【ライナー】デスキラー対策組織。子供の身体検査、デスキラー監禁を役割とする。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

~強さって、何だろう By,作者~

 


『strength for life』

 


【本編】

 


ブルース「っ…ははっ…これで…終わり、か…」

 


ブルース「……なあ…レイジ…」

 


クレイジー「っ…!」

 


ブルース「俺は……強くいられたかな………」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジーN「ブルーが最後に残した問に、俺は応えてやれなかった。

ブルース…お前は最期まで戦った。お前は十分強かったさ…」

 


クレイジーN「…なぁ、ブルー。俺は…強くいられただろうか…」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルース「なぁ、レイジ」

 


クレイジー「ん?どうしたよ相棒」

 


ブルース「ちょっと聞いてくれるか?」

 


クレイジー「なんだよ、改まって」

 


ブルース「俺な…見つかっちまった」

 


クレイジー「見つかった?何がだよ」

 


ブルース「デスキラー」

 


クレイジー「っ!?」

 


ブルース「あー、やっぱり。その様子だとまだ聞いてないんだな」

 


クレイジー「…親父は何も」

 


ブルース「ははっ、なんでなんだろな。来月で誕生日迎えて…晴れて20歳!それで終わりだと思ってたのにな…」

 


クレイジー「そんな……っ…くそ!」

 


ブルース「おい!どこ行くんだよ」

 


クレイジー「親父んとこ!」

 


【クレイジー:走り去る】

 


ブルース「……ったく、まだ話の途中だっての」

 


ブルースN「2081年ーー15歳の少年が両親を食らうという事件が起きた。

暴れ回る少年は手に負えず、そのまま撃ち殺され、解剖に回された。

その時検出された真っ黒な血は、とても人間のものとは言い難いものだったという。

原因は、遺伝子の突然変異。このニュースはたちまちに広まり、世間では『人喰い事件』と呼ばれるようになった。

そして、その事件を皮切りに、似たような事件が相次いぐようになった。

ある時は18歳の少年が。ある時は11歳の少女が。ある時は13歳と15歳の兄弟が同時に…。

人喰いと化した子供達は、皆撃ち殺された。残酷だが、それ以外に止める方法がなかったのだ」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「おい、親父!」

 


父「なんだ、騒々しい」

 


クレイジー「(父のセリフに被せて)ブルーがデスキラーだって!…本当なのか」

 


博士「あぁ、本当だ」

 


クレイジー「っ!……なんで…言ってくれなかったんだよ」

 


博士「(クレイジーのセリフに被せて)煩いぞ」

 


クレイジー「っ!」

 


博士「見つかったものは仕方ない。処分しなければ。お前も喰われるぞ」

 


クレイジー「なっ!?…親父…何言ってるか分かってんのか?ブルーだぞ!?親父も可愛がってた…あのブルーなんだぞ!?」

 


博士「クレイジー!口を慎め。今は博士と呼べ」

 


クレイジー「っ……」

 


博士「誰だろうと関係ない。例え、ブルースであろうと。これまでのデスキラー達と同様だ」

 


クレイジー「……あぁ、そうかよ。あぁそうかよ!……もういい」

 


【クレイジー:走り去る】

 


父「……」

 


クレイジーN「2082年ーーある学者が、人喰いと化する遺伝子変異の原因を突き止めた。

成長期に入った身体が、稀にその変化に耐えられず、じわじわと細胞そのものを変形させてしまうのだという。

彼はその対象に『デスキラー』と名付けた。…俺の親父だ。

これ以上犠牲を増やさぬようにと、国は対策組織を設立した。名を『ライナー』。俺も所属している1人だ。

ライナーの役割は2つ。1つは、10歳以上20歳未満の子供達の日々の検査。もう1つは、デスキラーと見なされた子供達の監禁。俺が配属されているのは後者だ。

デスキラーが正気を保てるのはたった5日間。その間、1日に極わずかな毒を投与され、衰弱死するまで手錠で繋ぎ、監禁される。

そんなデスキラー達を毎日観察し、壁越しに話をするのが俺のつとめであり、日課だったーーーでも…」

 

 

 

(間)

 

 

 

~次の日~

博士「クレイジー!ブルースの管理及び観察はお前に任命する」

 


クレイジー「なっ…!?」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジーM「まさか、相棒の死を預かることになるなんてな…」

 


クレイジー「親父!」

 


博士「(クレイジーのセリフに被せて)博士だ」

 


クレイジー「……博士、しかし俺には!」

 


博士「今までと何も変わらない。出来るな」

 


クレイジー「……俺には……出来ません」

 


博士「例え仲のいい者であれ家族であれ、デスキラーは処分しなければならない存在だ。そして、これはお前の仕事だ。分かるな?」

 


クレイジー「…分かりません」

 


博士「……頑固な。おい、ブルースを呼べ」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルース「よぉ、レイジ。ったく、昨日はいきなり帰りやがってよ。」

 


クレイジー「………」

 


ブルース「今日から監禁入りなんだよ。担当がお前だってのも博士から聞いた。今日からよろしくな!相棒」

 


クレイジー「おまっ…そんな呑気に…いいのかよ。ほんとにそれで…」

 


ブルース「ははっ…ま、仕方ねぇじゃん?お前がいてくれるって分かっただけ安心したぜ?」

 


クレイジー「っ……」

 


博士「話はもういいか」

 

 

 

(間)

 

 

 

博士「ブルースの管理は、今後クレイジーに任せることとする。異論はないな?」

 


クレイジー「………はい」

 


博士「ブルース。お前の部屋に案内しよう」

 

 

 

(間)

 

 

 

博士「ここが、お前の部屋だ。クレイジー、ブルースに手錠を」

 


クレイジー「っ……」

 


博士「早くしろ」

 


クレイジー「……ごめんな」

 


ブルース「なーにしょぼくれた顔してんだよ!ほら、手伝ってやろうか?」

 

 

【ブルース:自分の右手首に手錠をかける】

 


クレイジー「っ!」

 


ブルース「なぁ、レイジ。約束しようぜ?俺が死ぬまで弱音吐かないってよ。強くいようぜ?俺の最後の頼み。な?」

 


クレイジー「……」

 


クレイジーN「断れる訳がなかった。ブルーとは兄弟みたいなもんで、なんでも分かちあってきた仲だから」

 


ブルース「俺はとっくに覚悟できてっからさ!」

 


クレイジーN「そんな奴の頼みに、頷かないわけがない…」

 


ブルース「な?」

 


クレイジー「…あぁ、分かった。やってやろうじゃねぇか!その代わり、弱音吐いてみろ?死ぬまでおちょくってやるからな!」

 


ブルース「はーん。言ったな?そのまま返してやるよ!」

 


クレイジー「ふんっ、その挑発乗った!」

 

 

【クレイジー:ブルースの左手に手錠をかける】

 


ブルースM「もう、戻れない…」

 


クレイジーM「もう…戻れない」

 

 

 

(間)

 

 

 

博士「ブルース。ここにお前の命有り。苦難なる時も幸福なる時も、お前は1人の人であった。今、この神聖なる場にて、その命国に捧げること許したまえ」

 


クレイジーM「『命の儀式』俺はこの場を何度見てきただろうか…。

大半の子供達は泣き喚き、打ち拉がれていた。なのにこいつはーーーどうしてこんなにも笑っていられるんだ」

 


博士/父「ーー『サイゴ』まで生き抜いてくれ」

 

 

 

(間)

 

 

 

~1日目~

 


クレイジー「よぉブルー。元気にしてっかー?」

 


ブルース「なんだよレイジ。遅いじゃねぇかよ」

 


クレイジー「悪ぃ悪ぃ」

 


ブルース「あーあ、俺が1人寂しくこんなとこ閉じこめられてるってのにさー」

 


クレイジー「んなこと言うなよ。俺には他にも管理任されてる奴らがいんの!」

 


ブルース「っ…ははっ。そんなムキになんなって冗談だろ?」

 


クレイジー「この状況でやめろよな」

 


ブルース「はいはい。悪かった悪かった」

 


クレイジー「…思ってねぇだろ」

 


ブルース「で?その他の奴らってのは?」

 


クレイジー「へ?」

 


ブルース「お前の仕事の話って聞いた事ないだろ?」

 


クレイジー「あー、確かにな」

 


ブルース「ライナーがどんな組織かは知ってるし、お前の仕事がどんなに重いものかってのも想像つく。だから聞かなかったんだけどよ」

 


クレイジー「……」

 


ブルース「今は、理由は違えどこうやって同じ場所にいる訳だし。だから、聞いてもいいか?」

 


クレイジー「っ…はは。そんな気遣いお前らしくねぇよ!あぁ、聞け聞け!」

 


ブルース「なんだよそれ。…んー、そうだな。…どんな奴がいるんだ?」

 


クレイジー「どんな奴…ね。…まぁ、全員を全員知ってるわけじゃないけどさ。」

 


ブルース「おう」

 


クレイジー「今ここにいるデスキラーは合計7人。あ、お前も入れてな。」

 


ブルース「7人…。思ってたより少ないのな」

 


クレイジー「そんなことないぜ?5人超えれば多い方」

 


ブルース「ふーん、そんなもんか」

 


クレイジー「まぁ、デスキラーが目に見える程にいっぱいいても困るだろ?」

 


ブルース「まぁな」

 


クレイジー「で、その中で俺が管理してるのはお前含めて3人」

 


ブルース「7人中3人?!ほー、信頼されてんのな」

 


クレイジー「まぁ、軽く押し付けられてるようなもんだけどな。やっぱこういう仕事だからさ。ノイローゼ起こして仕事できなくなる奴がほとんどな訳。

で、その余りがこっちに来る訳よ」

 


ブルース「ふーん、大変なのな。まぁでも、信頼されてなきゃ頼まれねぇだろ?」

 


クレイジー「まぁなっ。これでもライナーのトップは、あの超有名な学者であり俺の親父だぜ?信頼されてんに決まってんだろ」

 


ブルース「っ……(吹き出す)」

 


クレイジー「んだよ」

 


ブルース「ははっ…お前ってほんと、親父馬鹿な奴…っ」

 


クレイジー「はぁ?んな事ねぇようるせぇな」

 


ブルース「はいはい。で?どんな奴がいるって?」

 


クレイジー「ったく、話逸らしたのはそっちだろうが…。」

 


クレイジー「1人はブロッサムって10歳の女だ。愛称は『サム』。俺が付けてやった。」

 


ブルース「10歳…」

 


クレイジー「あぁ。今いる中で最年少。2日前に入ってきた奴でな。ちょいと生意気だがよく喋る奴だよ」

 


クレイジー「んで、もう1人はルーザーって16歳の男。愛称は『ルー』。自分の名前が嫌いだからそう呼んでくれとさ。」

 


ブルース「ルーザーはいつからここに?」

 


クレイジー「ルーは明日で5日目。」

 


ブルース「……」

 


クレイジー「毒がまわって体はほとんど動かねぇみたいだけど、元気だぜ?

紙をくれって言うから渡してやったらさ、ずっと絵ばっか描いてやがるよ」

 


ブルース「…紙?」

 


クレイジー「あぁ、言い忘れてた。お前も何か欲しい物あったら言えよ。

手錠は外してやれないから不便だろうけど、何か使いたい物とかあれば…」

 


ブルース「(クレイジーのセリフに被せて)紙…」

 


クレイジー「え?」

 


ブルース「紙!俺も紙が欲しい。あぁ、あと書くものと」

 


クレイジー「あー、えーっと?紙と…書くものはなんでもいいのか?(メモしながら)」

 


ブルース「あぁ」

 


クレイジー「了解…っと。じゃあ明日の朝投函しとくよう頼んどくから」

 


ブルース「おう。よろしくな」

 


クレイジー「あいよ。っと、もうこんな時間か」

 


ブルース「帰るのか?」

 


クレイジー「あぁ。悪いな。また明日も来るからよ」

 


ブルース「分かってるって」

 


クレイジー「じゃあな。相棒」

 


ブルース「またな。相棒」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルースM「あと…4日」

 

 

 

(間)

 

 

 

~2日目~

クレイジー「よぉ。相棒」

 


ブルース「っ…!!」

 


クレイジー「ん?今なんか隠したろ」

 


ブルース「別になんでもねぇよ」

 


クレイジー「ふーん?」

 


ブルース「紙届いたからよ。試しに書いてみてただけだ」

 


クレイジー「…そうかよ。で?書いてみた感想は?」

 


ブルース「手錠が邪魔で書きづれぇ」

 


クレイジー「ははっ。だろうな。」

 


ブルース「ルーザーはどんな風に書いてんだ?」

 


クレイジー「……」

 


ブルース「レイジ?」

 


クレイジー「ルーは…死んだよ」

 


ブルース「っ……そういえば…。悪かった」

 


クレイジー「いや、ブルーが謝ることなんてないぜ?この仕事してたら、死なんて常につきものなんだからよ」

 


ブルース「……」

 


クレイジー「ルーは最後笑ってたぜ。幸せそうだったよ。あ、そうだ。これ…(ポケットを探りながら)」

 


クレイジー「ルーが最後まで握りしめてた。俺宛ての絵らしいぜ」

 


ブルース「…花?」

 


クレイジー「多分、向日葵だと思うぜ」

 


ブルース「…向日葵…」

 


クレイジー「ルーは、捨て子だったんだ。真夏の炎天下、橋の下に捨てられてたんだとよ。それを今のあいつの母親が見つけたらしいんだがな。籠の中には、赤子と一緒に『ルーザー』って記された紙と向日葵の花が入っていたらしい」

 


ブルース「……」

 


クレイジー「だから自分の名前を極度に嫌ってたんだろうな」

 


ブルース「でも、どうして向日葵の花なんて?」

 


クレイジー「これは後から分かった話なんだが、ルーの実の母親はルーを産んですぐにデスキラーだと発覚したんだそうだ」

 


ブルース「っ!?デスキラー…ということは…」

 


クレイジー「あぁ。ルーの実の母親は当時17歳。デスキラーになりうる対象だった。

おそらく、自分の子供を守りたかったんだろうな。デスキラーの子供だと知れば、世間は冷たい目で見る。それを避けたかったんだろう」

 


ブルース「その事…ルーザーには?」

 


クレイジー「もちろん知らされた。ルーが10歳の時」

 


ブルース「……」

 


クレイジー「俺はその時、まだルーの存在を知らなかったからよく分かんねぇけどさ。

多分、ルーにとって向日葵は母親の形見だったんだろうよ」

 


ブルース「…形見…か。…綺麗だな」

 


クレイジー「だろ?一丁前にメッセージまで添えやがってさ」

 


ブルース「…?あ、い、が、と、つ?」

 


クレイジー「(ブルースのセリフに被せ気味に)ありがとう…だってよ」

 


ブルース「ありがとう……」

 


クレイジー「こっちこそ、ありがとうだってのによ」

 


ブルース「…いい奴だったんだな」

 


クレイジー「あぁ」

 


ブルース「俺も会ってみたかったなぁ」

 


クレイジー「いつか会えるさ」

 


ブルース「……そうだな」

 


クレイジー「はーあ、なんかしんみりしちまったな」

 


ブルース「たまにはいいじゃねぇか」

 


クレイジー「ふっ、まぁな」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「じゃあ、そろそろ帰るわ」

 


ブルース「おう。また明日な」

 


クレイジー「おうよ。相棒」

 


ブルース「………」

 


クレイジー「あー!そうそう」

 


ブルース「?」

 


クレイジー「ルーは足使って書いてたぞ!足を使え!」

 


ブルース「……ふっ、あいよ」

 


クレイジー「じゃあ、またな」

 


【クレイジー:去って行く】

 


ブルース「……」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルースM「あと……3日」

 

 

 

(間)

 

 

 

~3日目~

クレイジー「よぉ相棒。起きてっかー?」

 


ブルース「…ん?なんだよ、今日は早いのな」

 


クレイジー「お、起きてた」

 


ブルース「今日は早く来れたのか?」

 


クレイジー「ん?あぁ。管理が一時的にお前だけになったからな」

 


ブルース「…そうか」

 


クレイジー「まぁ、明日また新しい奴が来るから今日だけになっちまうけど」

 


ブルース「別にいいよ。そんなの」

 


クレイジー「あぁん?寂しいんだろ?」

 


ブルース「はぁ?んなこたねぇよ」

 


クレイジー「本当かぁ?」

 


ブルース「当たりめぇだばーか。本当だったとしても誰が言うかよ。弱音吐かねぇって言ったろ?」

 


クレイジー「チッ…覚えてたか」

 


ブルース「テメェの言葉忘れる奴がいるかよ」

 


クレイジー「はっ、からかってやろうと思ったのによ」

 


ブルース「ふっ、死んでもそんなことさせねぇよ」

 


クレイジー「で?また何か書いてたのか?」

 


ブルース「ん?あぁ。見せねぇぞ?」

 


クレイジー「知ってらぁ。まぁ、どっちみち後で見ることになるけどな?」

 


ブルース「その時はその時さ」

 


クレイジー「いいのか?」

 


ブルース「あぁ。楽しみにしてやがれ」

 


クレイジー「……なぁ」

 


ブルース「ん?」

 


クレイジー「体調、どうだ?」

 


ブルース「ん?問題ねぇよ」

 


クレイジー「問題ねぇことねぇだろ」

 


ブルース「んー、確かに吐き気とか手足の痺れは酷くなってきちまったけど…」

 


クレイジー「(ブルースのセリフに被せて)」それのどこが問題ねぇってんだ?」

 


ブルース「ん?生きてりゃあ問題ないだろうよ」

 


クレイジー「……はぁ。お前なぁ」

 


ブルース「どうせ死ぬ運命なんだから、死ぬことに怯えてるより、少しでも生きようとする方が楽しいだろ?」

 


ブルース「ここに来てからさ、目が覚める度に思うぜ。あぁ、生きてる…って」

 


クレイジー「……」

 


ブルース「身体が言う事聞かなくなってきても、痛くても、きつくても、苦しくても…死が近付いてくる恐怖よりも、またレイジに会えるって喜びの方が大きいんだぜ」

 


クレイジー「…」

 


ブルース「だって、ここにいれば毎日お前に会えるだろ?俺さ、それがすっげえ嬉しい」

 


クレイジー「…っはは。嬉しい事言ってくれんじゃん」

 


ブルース「だから、問題なんて何にもねぇよ」

 


クレイジー「……そうか」

 


ブルース「あーあ、なんか小っ恥ずかしいこと言っちまったな」

 


クレイジー「なんだよ、いいじゃねぇかよ。撤回すんなよ?」

 


ブルース「はっ、しねぇよ。全部本心だ」

 


クレイジー「…ありがとうな」

 


ブルース「んだよくすぐってぇな。礼なんていらねぇよ」

 


クレイジー「ふっ、素直じゃねぇ奴」

 


クレイジー「……なぁ、ブルー」

 


ブルース「ん?」

 


クレイジー「明日も生きろよ」

 


ブルース「っ…。ははっ、ったりめえよ」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルースM「…実際、体はボロボロ。思考回路も意識してないと今にも途切れそうだ。でも、レイジには見せたくねぇ。あいつだって、頑張ってんだ」

 


ブルースM「『強くいようぜ』…なんて、『サイゴ』の『サイゴ』にとんだわがまま言っちまったよな。あいつの弱さは相棒の俺が1番分かってるってのによ。でも…それでも、弱音なんて吐きたくなかった。じゃなきゃ……俺は…」

 

 

 

(間)

 

 

 

ブルースM「あ、と…2日」

 

 

 

(間)

 

 

 

~4日目~

ブルースM「………来ない」

 


ブルースM「……落ち着かない。

大丈夫。これは不安なんかじゃない。これは恐怖なんかじゃない。これは……」

 


父「ブルー」

 


ブルース「っ…!…あ」

 


父「調子はどうだ」

 


ブルース「調子…あ、えっと、」

 


父「無理はしなくていい」

 


ブルース「え…」

 


父「もう、喋るのもきついんだろう」

 


ブルース「……」

 


父「無理して考えるな。無理して喋らなくていい」

 


ブルース「……」

 


父「今日はレイジは来ないかもしれない」

 


ブルース「…そう…か…」

 


父「何があったって訳ではないんだがな」

 


ブルース「…分かって、る」

 


父「…そうか」

 


父「お前もレイジも馬鹿なくらいに強がりだからな。そのくせに泣き虫で。

お互いに心配をかけることは何も言わないが、私から見れば何を考えているかよく分かる。2人共、とてもよく頑張っているな。」

 


ブルース「……」

 


父「私はライナーの管理者として、平等に命を裁かねばならない。だからずっと、自らの気持ちを抑えてきた」

 


ブルース「……わか、って…る」

 


父「だが、今日は博士としてじゃない。1人の人として。クレイジーの父親として。…お前に話をしに来た。聞いてくれるか?」

 


ブルース「……あ、ぁ…」

 


父「…ブルー。お前は本当に強い奴だな」

 


ブルース「……」

 


父「小さな頃からそうだ。歳上のレイジよりもずっとしっかりしていて、強くて。

レイジよりも気に入っている部分があった。

父親の私がこんなことを言うべきではないんだろうけどな」

 


ブルース「っ…そんな、こと言ったら…レイジ、が…妬くぞ…」

 


父「ははっ、いいんだよ。今くらい。レイジには秘密だからな」

 


ブルース「死んでも…言わねぇ…よ…」

 


父「正直悔しいよ。どうしてブルーなんだってな。でも、そんなことを言っても仕方が無いからな。私は『サイゴ』まで私の仕事をさせてもらう」

 


ブルース「……そう…し、てくれ」

 


父「ブルー」

 


ブルース「?」

 


父「レイジと仲良くしてやってくれて…感謝している。あいつは良い奴だが、難あるところも多々あるからな。喧嘩を買ってくることもしょっちゅうだっただろう」

 


ブルース「……」

 


父「そんな中、ここまで親身になってくれるのは、ブルー。お前だけだったよ。

レイジはお前に出会って救われたよ。それは、私も同じだ」

 


父「ーー『サイゴ』にこれだけは伝えたかった。お前は、私にとって息子も同然の宝だ」

 


ブルース「……あ、りがっーーーー」

 


ブルースN「ーー俺の意識はそこで途切れた」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「い…おい……」

 


ブルースM「…なんだ…騒がしい…」

 


クレイジー「ブルー…、なぁ…おい…」

 


ブルースM「……レイジ…。来て、くれたのか?」

 


クレイジー「聞こえてんのか…なぁ……おい!」

 


ブルースM「聞こえてるっての…うるせぇな…」

 


クレイジー「おいブルー!しっかりしやがれ!」

 


ブルース「っ…!!」

 


ブルース「……レイ、ジ…」

 


クレイジー「ったく、やーっと起きやがったか。遅いぞ」

 


ブルース「…っ…遅いの、は…お前だろ」

 


クレイジー「ははっ、悪ぃ悪ぃ。ちと調子が優れなくてな」

 


ブルース「どーせ…っ、食いすぎて…腹でも壊したん、だろ」

 


クレイジー「んー、まぁ、そんなところ?」

 


ブルース「ったく…相変わらずだ、な…っゲホゲホ」

 


クレイジー「っ!」

 


ブルース「なぁ、レイ、ジ…」

 


クレイジー「ん?」

 


ブルース「今……何日、だ…?」

 


クレイジー「お前はんなこと気にしなくて…」

 


ブルース「今……何日、だ」

 


クレイジー「……5日。もうじき明日になる」

 

 

 

(間)

 

 

 

~5日目~

ブルース「…やっぱり…そうか」

 


クレイジー「……」

 


ブルース「わ、かる…ぜ?どんどん…意識が遠のいてく……死が…近いんだ、…って…」

 


クレイジー「…昨日、意識を失ってから今までずっと眠っていたそうだ。

……悪かったな。お前がそんななのに、俺…」

 


ブルース「謝んな、…って。それ以上言ったら、お前、弱音…止まんね…だ、ろ…」

 


クレイジー「ははっ…そうかもな」

 


ブルース「強くいよぉぜ……。俺は、お前の…そういう…とこーーー」

 


クレイジー「ブルー?っ…おい!」

 


ブルースM「……おいブルース…。まだ…逝くんじゃねぇよ…」

 


クレイジー「ブルー?おい!なぁ!返事しろよ!!!」

 


ブルースM「まだ……レイジに…伝えてなーーーー」

 


【心肺停止の音】

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「なっ……。そんな…ブルー!なぁ!」

 


クレイジー「っ…親父っ……博士を呼ばないと」

 


【クレイジー:走り去る】

 


クレイジー「はぁ…はぁ…っ、博士!」

 


博士「なんだ騒がしい」

 


クレイジー「(博士のセリフに被せて)ブルーがっ!」

 


博士/父「…死んだ、か…」

 


クレイジー「……はい」

 


博士/父「……そうか」

 

 

 

(間)

 

 

 

博士「直ぐに処分しろ」

 


クレイジー「っ………はい」

 


【クレイジー:立ち去ろうとする】

 


博士「………クレイジー!」

 


クレイジー「………」

 


博士/父「…よく…頑張った」

 


クレイジー「……ありがとう……ございます」

 


【クレイジー:立ち去る】

 

 

 

(間)

 

 

 

~6日目~

【クレイジー:ブルースの部屋の鍵を開ける】

 


クレイジー「………ブルー…」

 


クレイジー「…お前は……よく頑張ったよ…ほんと」

 


クレイジー「…なぁ、ブルー。お前は俺の人生で最初で『サイゴ』の相棒だ。…忘れねぇよーーーー」

 


クレイジー「…っ、くそ…。なんで…なんで、なんで!なぁ!目ぇ覚ましやがれよ!なぁ!」

 


ブルース「っ…ゲホゲホ」

 


クレイジー「っ…!?」

 


ブルース「っ…レ、イジ」

 


クレイジー「なんで…生きて……」

 


クレイジーM「ブルーが…生きてる…?生きてる…生きて……!」

 


クレイジー「っ…?!ぁ…くそっ…肩…」

 


ブルース「……食い…たい……」

 


クレイジーM「ブルースのその目はもう……人ではなかった。その目を見た途端俺の中で糸が切れた。痛い…痛い…イタい……。

傷口なんてどうでもいいほどに…苦しい…認めたくねぇ…」

 


クレイジー「あ゛ぁぁぁぁぁっ!」

 


クレイジー「なんで…なんで…。なぁ、ブルー…なんでお前なんだよ…。もう…これ以上お前を苦しめたくねぇよ。苦しみたくねぇよ!……お前を殺すようなこと……したくねぇよ…」

 


ブルース「…食わ、せろ…」

 


クレイジー「あぁ。食えよ。…俺を食えよ。もう…限界だ」

 


ブルース「ぁ、ぁ…うわぁぁぁっ!」

 


クレイジー「っ…!」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「…?」

 


ブルース「……やめ…ろ……」

 


クレイジー「……ブルー?」

 


ブルース「勝手なこと…言ってんじゃ、ねぇ…」

 


クレイジー「なっ、お前!」

 


ブルース「俺、だって!……お前のこと…傷つけた、く…ねぇん…だよぉ…」

 


クレイジー「っ…」

 


ブルース「こん、な……血ぃ、流させ、て…。ほん、と…情けねぇ、よ…」

 


クレイジー「そんなことっ!」

 


ブルース「な、ぁ…レイジ」

 


クレイジー「っなんだ?」

 


ブルース「もう…俺は…俺じゃ、ねぇ。お前んこと……食っちまう…。だから、さ……殺し、て…くれよ…」

 


クレイジー「な、お前何言って…そんなこと!……出来るわけねぇだろ」

 


ブルース「いい…から…!……殺れ、よ…」

 


クレイジー「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ!やめてくれよ!」

 


【発砲音】

 


ブルース「ぐっ……ぁっ…」

 


クレイジー「なっ…博士…何して…」

 


博士「処分しろと言ったはずだ」

 


クレイジー「でも!ブルーはまだ死んでっ…」

 


博士「そいつはもうブルースではない。デスキラーだ」

 


クレイジー「でも!」

 


博士「それ以上口を挟むな!…『サイゴ』の時間を設けてやる。終わったら呼びに来い」

 


【博士:立ち去る】

 


ブルース「っ……た、く…いってぇ…」

 


クレイジー「っ!ごめんな…」

 


ブルース「んで…お前が、謝ん、だよ…」

 


クレイジー「俺…俺…」

 


ブルース「……もう、何も…言うな、よ…。時間、ねぇんだから、よ…」

 


クレイジー「っ……」

 


ブルース「弱音…吐いた、から…お前の、負け…だな…」

 


クレイジー「あぁ、もうそれでいいからっ…」

 


ブルース「(クレイジーのセリフに被せて)ったく……ははっ…これで…終わり、か…」

 


ブルース「……なあ…レイジ…」

 


クレイジー「っ…!」

 


ブルース「俺は……強くいられたか、な………」

 


クレイジー「そんなのっ…」

 


ブルース「なぁ、レイジ…(クレイジーのセリフに被せて)」

 


ブルース「お、れ……」

 


クレイジー「っ…ブルー?ブルー?なぁ………ブルース!!」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジー「……終わり…ました」

 


博士「ご苦労だった」

 


クレイジー「……親父、俺…」

 


博士「まだだ」

 


クレイジー「え…」

 


博士「まだ、終わっていない。ブルースの部屋を片付けにいくぞ」

 


クレイジー「………はい」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジーM「あの後、ブルーの遺体は研究にまわされた。俺は放心状態で、さよならさえも言えなかった…。」

 


クレイジー「…博士、片付け終わりました」

 


父「………」

 


クレイジー「…博士?」

 


父「……ブルース…」

 


クレイジー「っ…その紙は…」

 


父「ブルースの…ものだ」

 


クレイジー「っ…見せてください」

 


父/博士「…お前は、見ない方がいい」

 


クレイジー「なっ……どうして…」

 


父/博士「…いいから」

 


クレイジー「俺には!……見る権利があります」

 


父「…どうしても、見たいのか」

 


クレイジー「……はい」

 


父「……分かった。だが、何があっても自分を失うなよ」

 


クレイジー「……分かりました」

 


【父:紙を渡す】

 


父「……」

 


クレイジー「っ……!」

 


クレイジーN「そこには、目を覆いたくなるほどの残酷な言葉が羅列されていた」

 


ブルースM「苦しい……痛い……出たい……。レイジに会いたい……。なんで俺が……。もっと生きてたかった……。死にたくない……」

 


クレイジーN「これが……ブルーの本音…」

 

 

 

(間)

 


父「大丈夫か?」

 


クレイジー「……あぁ」

 


父「なぁ、レイジ」

 


クレイジー「なんだ、親父」

 


父「ブルーは……私を憎んでいるだろうか」

 


クレイジー「っ……」

 


父「私のことを、恨んでいるだろうか…」

 


クレイジー「……そんなことねぇよ。あいつは、親父にすっげぇ感謝してた」

 


父「…そうか」

 


クレイジー「…なぁ、親父」

 


父「なんだ、レイジ」

 


クレイジー「俺も…あいつに憎まれてねぇかな…」

 


父「大丈夫だ。あいつは、最後までお前に感謝していただろう」

 


クレイジー「……」

 


父/博士「お前は、本当によく頑張ってくれている。今回だって」

 


クレイジー「………」

 


父「よく、頑張ったな」

 


クレイジー「っ……」

 


父「今は泣けるだけ泣いておけ」

 


クレイジー「っ……ぁ……」

 


父「………」

 


クレイジー「…なぁ、親父」

 


父「なんだ?」

 


クレイジー「……親父も…よく頑張ってるな」

 


父「っ……!?」

 


クレイジー「…俺、親父のこと…すっげぇ尊敬してっから」

 


父「……あぁ。ありがとう」

 


クレイジー「俺は……どこまでも、ついて行くからな…」

 


父「………あぁ」

 


クレイジーN「涙でぼやけちまってたけどーーー初めて、親父の涙を見た気がしたーー」

 

 

 

(間)

 

 

 

クレイジーN「なぁ、ブルー。俺は…強くいられただろうか」

 


クレイジーM「ブルーがいなくなってから、3ヶ月がたった。デスキラーは収まることなく、相変わらず俺は死と隣合わせの毎日を送っている。

人が死ぬってのは、やっぱりどんなに経験しても慣れないもんだ。それでも仕事だから、やらなきゃいけねぇしやめる気もねぇ。

親父が進む道に俺も続こうと、俺自身が決めたから。

なぁブルー。強くなるってなんだろな。今になってもやっぱ分かんねぇよ。あの時だって結局弱音吐いちまったしな。

でも…。ただ1つ俺が言えることは、

ブルー。お前は十分強かったぜ」

 


博士「クレイジー。新しく管理を任せたい奴がいる。いいか」

 


クレイジー「はい、博士」

 

 

 

【END】

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


~あとがき~

(少し長くなりますが最後までお付き合い下さいませ)

 


どうも。作者の鎖狂です。

今回はかなり重ためなお話になりました。

しかし、こんなにも重たい内容にも関わらず、実はこの物語を書くきっかけは、ただ『クレイジー』という名前のキャラクターを登場させたかっただけなんです(笑)

いやー、作者もまさかここまで重たい話になるとは当初は思っても見ませんでした。

 


今回の作品のテーマは『責任感』です。

クレイジーの相棒を守りたいという気持ちに反する、仕事を全うしなければならないという責任感。

ブルースの死にたくないという気持ちに反する、クレイジーを守りたいという責任感。

人間、自分の気持ちよりも優先しなければならないこと、やりたくなくてもやらなくてはいけないことってありますよね。

博士と父の表記を別々にしたのもそのため故です。

父の父親としての責任感。博士としての責任感。そんなシビアな部分を表現したく、あえて別々にしてみました。

なので、あまり出てこないにも関わらずクレイジーの父親は最も重要で難しいキャラクターになるでしょう。

 


登場人物達は一体どんな気持ちだったのでしょうか?きっと複雑な気持ちだったと思います。

しかし、苦しくても自分の成すべきことを全うした登場人物達はそれぞれに強かったのではないかと作者は思います。

 


また、作者の遊び心で作品の所々に散りばめられた『サイゴ』の表記にも注目していただきたいです。

果たして登場人物達にとってそれは何に対する『最後』なのでしょうか、はたまた何に対する『最期』なのでしょうか。

同じ言葉でも違う意味になる。

そうやって見ると、捉え方もまた変わりますよね。

 


皆さんは、この物語に何を思うのでしょうか?

深く考えることの出来る作品になっていればいいなと作者は願っております。

 


それでは、次回作でお会いしましょう。

虹色の蒼空~廻る万華鏡~

『虹色の蒼空~廻る万華鏡~』

(1:1:0)

10~15分台本

 

~登場人物~

[男]

・女からは30代くらいに見えている(あくまで見えているだけで実年齢は不明)

・元サラリーマン

・自殺未遂者

・一人称『俺』

[女]

・男からは子供に見えている(実際は成人している(らしい)が、実年齢は不明)

・有名な金持ち一家の1人

・一人称『私』

 


注意⚠

・ 当サイト『さきょうのあたま』の利用が初めての方は、必ず利用規約をお読みくださいませ。

・年齢、場所、時間、関係性などなど、設定は一切ございません。全てはあなた達が考える物語です。

・笑い声やため息や涙などのリアクションは一切書いていませんので、自己責任でつけてください。

・最後に、読み込みの際は『あとがき』までお読み頂けると作品に対する作者の意図が掴んでいただけると思うのでオススメです。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

~この物語は、あなた達が作るものですBy,作者~

 


【本編】

 


虹色の蒼空

~廻る万華鏡~

 

 

 

[男M]

明日はきっと晴れる…。そんな期待をしていたが……結局は雨が降って、それどころか雷までなる始末で…ほら、元通り。

 


[女]

ほーら、また雨が降った。

 


[男]

はいはい、全く雨続きもいい加減にして欲しいな。

 


[女]

そう?

私は雨好きだけどなー。

 


[男]

こんなジメジメしてんのの何がいいんだか。

 


[女]

んー、おじさんと一緒にいられるから?

 


[男]

嘘だろ

 


[女]

うん、嘘

 


[男]

知ってた

 


[女]

うん、知ってる。

それよりおじさん、お腹空いた。

 


[男]

金ならないぞ。

 


[女]

もー、そういうところケチなんだからー。

なんでもっとお金ないわけ?

おじさん30歳くらいでしょ?

 


[男]

持ってねぇもんは持ってねぇつーの!

 


[女]

それにしてはよさげなブランド品つけてるじゃん…怪しーい。

 


[男]

煩いな

 


[女]

おじさん…何か隠してるでしょ?

 


[男]

っ別に…何も隠しちゃないよ。

 


[女]

へー、首吊り自殺しようとしてた人の言うセリフ?

何も無くて自殺するの?おじさん趣味悪いねー!

 


[男]

あーもう、煩いな!

リストラだよリストラ!

お前みたいなひよっこには分からないだろーよ!

 


[女]

私、普通に成人超えてるんだけど。

 


[男]

へー、何歳なんだよ

 


[女]

わー、おじさん女の人に年齢聞くなんてそれこそ趣味悪ーい!

 


[男]

なっ…大人をからかうんじゃあない!

 


[女]

だーかーら、私も大人だって。

 


[男]

…あー、もうなんでもいいよ。めんどくさい。

 


[女]

ま、今更深読みしたところでなんだけどねー。

お互い身分も明かさずに、ここに居るんだからさ。

 


[男]

ほんと、こんなうるさい奴がいて、息苦しいよ。

 


[女]

そんなこと言って、窒息死しないだけマシでしょ?

 


[男]

俺は死のうとしていたんだぞ?!窒息死の方がまだマシだね。

 


[女]

嘘だぁ。私が助けてあげた時、安心しきった顔してたくせに。

 


[男]

助けただ?邪魔をしたの間違いだろうに。

 


[女]

でもおじさん、ちゃっかり着いてきたじゃん。

 


[男]

そりゃ、お前が『着いてきたら最高の死を見せてあげる 』なんて言いやがったからな。

気になってついていけばなんだここ。

 


[女]

いい場所でしょ?

最期の場所にはもってこい。

 


[男]

そうか?狭いし…それになんだよあのゲーム。

 


[女]

了承したのはおじさんだよ?

『次の日が雨なら繰り返し。晴れならおじさんを殺す。そして曇りなら…一緒に死のう』って。

面白いでしょ?

実際雨続きで死ねずじまいだけどねー。

 


[男]

この梅雨じゃあ仕方ないけどよ…。

なぁ、俺はいつ死ねるんだ?

 


[女]

さぁ、天気に聞けば?

 


[男]

俺の死を決めるのはお天道様しかいないってか。

 


[男]

やれやれ、リストラなんかにあわなきゃなー

 


[女]

今頃何してた?

 


[男]

何してたんだろうなー。

いい家住んで、家族もいて、好きなことして…幸せだったろうに。

 


[女]

幸せ…欲しい?

 


[男]

あぁ、そりゃあ手に入るもんなら欲しいね。

 


[女]

じゃあ、そのブランド物の服やらアクセサリーやらなんなりと売っちゃえばいいのに。

 


[男]

なっ、これはダメだ!俺の宝物になんてこと言いやがる!

 


[女]

それさえ売れば少なくとも生活費は帰ってくるよ?死ななくて済むんじゃない?

 


[男]

これは俺のプライドだ。

仕事で重ねたプライド。そんなもん捨てられるかよ。

墓場まで持っていくんだ!分かったか!

 


[女]

まーったく、プライドなんて死んだら価値ないのに。

 


[男]

仕事をすればいずれわかるんだよ。

 


[女]

ふーん、そんなもの?私にはわかんないや。

 


[男]

分からなくていいんだよ。

別に分かってもらいたかねぇしよ。

 


[男]

そんで、お前はどうして死にたいんだよ?

 


[女]

へ?私死にたいなんて一言も言ってないよ?

 


[男]

でも、曇りならお前も死ぬって…。

 


[女]

あぁ、あんなの大した理由なんてないよ。

おじさんとなら死んでもいいかなって。

 


[男]

なんだよそれ

 


[女]

でも、3分の1の確率だからね。

私の命の行方もお天道様にしか分からない。

 


[男]

ま、こっちも深読みはしないけどよ。

 


[女]

………。

 


[女]

明日はどうなるかな?

 


[男]

また雨なんじゃないか?

 


[女]

それは…失望?それとも…願望?

 


[男]

煩いな

 


[女]

………。

 


[男]

まぁ、お前といるのも悪くは……ないかもな。

 


[女]

……ありがとう。

 


(次の日)

 


[女N]

別に何か理由があったわけじゃない。

家庭だってあったし、趣味を共有できる友達だっていたし、お金だってあった。

幸せすぎるくらいの生活で、満たされていた。

 

 

 

[男]

おはよう

 

 

 

[女N]

そんな日々だったけれど、ある日おじさんを見つけた。

毎朝窓から、D社に入っていく姿を見送り、夜には残業帰りの重たい背中を見送っていた。

そんなある日、おじさんがリストラにあったと風の噂で聞いた。

私が持っているもの全てを持たないおじさん。

それだけでなく、それ以外をも失ったおじさん。

ただ、興味本位だったんだ。

それでも、声をかけずにはいられなかった。

 

 

 

[女]

……おはよう。

 

 

 

[男N]

町外れの裕福な家。

そこらでとにかく有名なお金持ちの家だ。

俺はそのすぐ近所の会社に通っていた。

その道で、いつも窓から覗いている女がいた。

 

 

 

[女]

やっと……晴れちゃったね。

 

 

 

[男N]

最初は、『金持ちなんて! 』と毛嫌いしていたが、いつの間にか毎日窓の様子をちらっと伺うのが日課になっていた。

そんな日々の中で、俺はリストラにあった。

初めは頑張ろうとしたが、なんだか馬鹿らしくなってやめた。

もうこれしかないと自殺を決めたが、その瞬間ふとあの窓越しの女が声をかけてきた。

ただ、興味本位だったんだ。

それでも、着いていかずにはいられなかった。

 

 

 

[男]

あぁ…。

もう……死ねるんだな。

 


[女]

やっと…死ねるんだね。

 


[男]

全く、何日かかったんだか。

 


[女]

ほんと、何日かかったんだか。

 

 

 

[女N]

内心、曇りになって欲しいと願っていた。

おじさんと過ごす時間の中で、この人と最期を味わってみたいと思ったから。

でも、本音を言えば、雨が続けばよかったと…そう思う。

 

 

 

[女]

ほんと、これ以上雨が続かなくてよかったよ。

 


[男N]

内心、曇りにならなくてよかったと安堵していた。

煩いやつだが、女と過ごす時間の中で、この人は死なせたくないと思ったから。

でも、本音を言えば雨が続けばよかったと…そう思う。

 

 

 

[男]

本当に。

これ以上続くだなんてゴメンだからな。

 


[女]

最期に言い残すことは?

 


[男]

そんなもんねーよ。

まぁ……ありがとう…とでも言っておくか。

 


[女]

…おじさん、らしくなーい。

 


[男]

ばーか、『死なせてくれて 』ありがとうだよ。

 


[女]

おじさんの最期が私で嬉しいよ?

 


[男]

そんなこと思ってないだろ。

 


[女]

あ、バレた?

まぁでも、楽しかったよ。ありがとう。

 


[男]

あぁ、じゃあな。

 


[女]

おじさん!

 

 

 

[男N]

女の呼び声と共に強烈な痛みが走った。

あぁ…これで死ぬのか。呆気ないな。

走馬灯が走り抜ける中、最期に聞いたのは優しい声だった。

 

 

 

[女]

……また、会おうね。

 

 

 

【END】

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


~あとがき~

 


どうも、作者の鎖狂です。

今回は、作者の記念すべき第1作目の作品です。

それでは、この物語を書き始めたいきさつを少しだけ語らせて頂きたいと思います。

台本には、ストーリーの流れがあり、そこにキャラクターがいて、細かい設定などがあり…。そういうものだと思います。

そこを全てとっぱらってしまえば、一体役者はどんなにふうに考え、感じ、演じるのだろう。

また、その物語はどのような色に染まるのだろう…と。

そのように考え作られたのが、この作品です。

制作調節段階では、設定が全くなく全て演者任せなことに「演者殺し!」とよく言われたものです(笑)

 


このゲームの意味は?2人は何を思っていたのか。男の死因は?些細な言葉の意味とは……。

他にも様々な疑問が過ぎるこの作品。

皆さんはどのように感じるのでしょうか。

 


今作、『虹色の蒼空~廻る万華鏡~』のタイトルに隠された想い。

是非ともこの作品を、虹のように様々な色に染め上げ、万華鏡をくるくるとまわす楽しみのように様々な表情を見せてください。

2人の物語をめぐらせてやってください。

 


それでは、次回作でお会いしましょう。